○ＭＩＳ ＡＭＩＧＯＳ 〜僕の友達〜
 ある秋の夜長にふとお見えになった馴染みのお客様、鈴木さん。「１杯やるか」この一言で私たちバーテンダーが全員ご馳走になる。「いただきます。」小さく乾杯して私たちはデュワーズソーダをいただきました。鈴木さんはお酒が強く、私たちもまた同じぐらい飲めると思っているようだ。
しかしそれは違うんですよ、あたしゃぁ酒が弱いんです実は…。そんなことは自分から言いたくないしせめてそれが男だ！なんてひそかに思っていると鈴木さんがこう切り出しました。「ちょっと出ようか。付き合ってくれよ」「分かりました。喜んで」こう言うしか私には出来ませんでした。あんな低い声でぼそっと「ちょっと出ようか」なんて言われちゃったら断れない。
こうして銀座の夜の街の中、私の知り合いのバーを紹介し、鈴木さんのお目当ての女性がいるクラブで新しいボトルを入れ、締めに寿司とお供させていただき店に帰ってきた時は深夜１２時ぐらいでした。サッとカウンターの後ろ側からお客様方の後姿を見渡す。その中に一際体の大きい人が座っている。彼は私に気がつくと満面の笑みで立ち上がった。「ＨＯＬＡ，元気？」それはモネールでした。そうです、アルゼンチン小旅行に一役買ってくれた人です。私はかなり酔っていたのですが、それが彼にとっては面白かったようで会話には花が咲きました。とても目立つ人なので周りのお客様も会話に参加してきて盛り上がりました。彼はＪリーグの選手だったので横浜フリューゲルスがどうだった、浦和レッズは昔本当に弱かったとかアルゼンチンと日本のサッカーを自慢しあったりしました。あるお客様が小野伸二のパスは世界一だと言いました。するとモネは「あんなのアルゼンチン人はミンナ出来るネ〜」と茶化してきました。勿論冗談ですが。
しかし考えてみると日本から見て地球の反対側にある国に住む彼とこうして会うのは何回目だろう。どうして毎回この店に寄ってくれるのだろう。彼だけではない、ブエノスアイレスの僕の彼女（笑）ビビアナも一度お店に来てくれた。義理人情の厚い銀座の街、日本人。そう思っていた私は携帯電話の電波の如くエリアを拡大しました。
「日本人だけではない、きっと世界中の人達が義理堅いのだ」と。
思えば私は不義理な男です。今晩ご馳走になりまくった鈴木さんや沢山のお客様。修行時代からお世話になってきた先輩方に何も返せてない。例えばモネールやビビアナをはじめ、ギリシャ人のレダや長身の男性、麻美や智子ように自然な形で人に喜びを与えていける人物でありたい。 そしてそれが出来る環境にあるのが銀座だ。銀座の人達は温かい。ここで頑張れることに幸せを感じる夜でした。
〜カウンターからタンゴの世界はここまで。今までお付き合いいただきまして本当に有り難うございました。〜
亀島延昌 |
