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亀島延昌のちょっと一服

 
 

カウンターからタンゴの世界へ vol.22

○コミュニケーションとは
  一般的にはタンゴに特定のパートナーはいません。その場で出会い、4曲位踊ってサヨウナラ。この繰り返しです。もちろん特定のパートナーと一緒にミロンガ(ダンスホール)に行っても良いです。ただ多くの場合友達同士や一人、団体で行ってパートナーを変えながら踊っていきます。
 思えば強制的にやらされたタンゴダンス。長身の男性やちょっと派手な二人の女性麻美、智子やギリシャ人のレダ達と出会い、今となっては団体でミロンガへ行くようになりました。
 そして数曲、数回、何度も一緒に踊っていくに連れ、相手の特徴が分かっていき自分の身体も相手に馴染んでいく。たまには絶対に合わないこともある。それは心が合っていないからかもしれない。
 数曲踊っても全く息が合わない相手が今ここにいる。ギリシャ人女性のレダ。日曜日の銀座の夜のことだ。
 みんなで飲んでいたのに私と二人で呑み直したいと言い出し、こちらに駆け寄ってきた。共にタンゴを踊っても全く合わない二人が酒を酌み交わそうとしている。もっとも私が彼女の誘いを断らない理由はレダが綺麗だからであったが。

○悪い仲間 〜Mala Funta〜
 日曜日の夜。銀座は週で最も人が少ない。営業しているお店も少ない。
 私はレダをどこに連れて行くか考えながら歩いていました。あのお店も休み・・・。そこも休み・・・。う〜ん、しかしあまりウダウダしているとかっこ悪いな。しょうがない、自分のお店に連れて行こう。日曜日は私のお店もお休みです。私はスタッフにはいつもこう言っています。「いいか、お休みの日に店でくつろぐようなことはしてはいけないよ。ここは我々にとって聖地なのだから。」と。その掟を私自らが破ろうとしているのでした(笑)
 店に着くと鍵を開け、暗闇の店に明りを灯す。レダをカウンターの真ん中に座らせ、シャンパンを注ぐ。そういえば以前長身の男性とアルゼンチン女性のリタと3人でお休みの自分の店で飲んだことを思い出しました。そう考えると掟を破ったのは2回目だな。しかし今回は2人きりだ。前回とは勝手が違う。そんなことを考えているとレダはシャンパングラスを手に、こう切り出しました。「ノブサン、私もうすぐ誕生日です。」私はギクっとしました。何か買ってくれというのか!!しかし私はそれを表情には一切出さず、むしろいつもよりも2オクターブ低い声を絞り出し言いました「そうかい、おめでとう。」リダは続けました。「だからシャンパンをご馳走します。」「ん?」「ギリシャでは誕生日の人がご馳走する習慣です。」これは日本と全く逆ですね。これでは銀座のホステスさんも商売にならない(笑)待てよ、お客様が誕生日の日にご馳走してもらえれば・・・。むしろ回数が増えるぞ・・・。おっとそんな商売のことを考えている場合ではない。私は低い声をキープしたまま「ではいただくことにするよ。」と言ってボランジェで乾杯しました。それから私たちは色々なことを語り合いました。日本人が英語が苦手な人が多いことに驚いた話。世界で一番優しい人が多いのが日本だとも彼女は言っていました。そして「タンゴ・・・練習しましょう。」そう言って私たちは立ち上がりました。選曲はMala Junta。悪い仲間と言う意味です。掟を破った私と破らせた彼女に逆恨みをして選んだ1曲でした。お昼過ぎからずっと一緒だった二人は色々な話をしました。タンゴ以外でお互いのコミュニケーションを図ってきた二人の間にタンゴの相互関係が生まれ始めていました。さあ、1夜限りのTANGO特訓の始まりです!