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亀島延昌のちょっと一服

 
 

カウンターからタンゴの世界へ vol.23

○なぜ僕を・・・?
  突如として始まったギリシャ人女性レダとのタンゴレッスン。
 シャンパンを一口飲んでは組み、互いにステップを確認し、また飲んでは踊っていく。
 タンゴのステップは約100年の歴史の中でほとんどが自然に生まれたといわれています。しかし1つだけ人工的に作られた(編み出されたと言ったほうかもしれない)ステップがあります。これはサリダ(SALIDA)というもので、レッスンなどに行くと世界的に必ず最初に教わるステップです。たった8歩のステップですが、これさえマスターしてしまえば1曲この8歩の繰り返しだけで踊ることが出来ます。また、中、上級者用のステップも分解してみるとこの「サリダ」の要素が含まれています。
 もともとこのサリダ(SALIDA)というのは出口と言う意味のスペイン語で、意訳すると出口→ここから出発。つまりこのステップからはじめよう!ということになると思います。
 つまるところ、私はレダを目の前にして、ここから練習を始めようと考えました。お互いにタンゴの初心者。何曲か踊ったことはあるが相性は良いとはいえない。それならサリダをひたすら繰り返して、何かを見つけようと思ったのです。サリダを同じように踊ると言っても色々遊べます。まずはアブラソ(抱擁)やわらかくして組む。こうすると相手は遠くに立つことになる。これで4歩目まで行く。ここで抱擁をきつくする相手がぐっと近づいてくる。ここから5歩目を踏む。しかしレダはうまく反応してこない。
 シャンパンを一口飲む。レダはここには反応してくる。彼女も一口。
 今度は最初からアブラソを強くしてみる。ほのかにレダの髪の香りがする。バラのような香りだ。自分から抱擁を強くしたくせに自分が緊張している。息を止めてしまっている。このままでは一人窒息死だ。
 今度はアブラソは通常通りだが2歩目から3歩目をゆっくりにしてみる。すると音楽が耳に入ってくる余裕が生まれる。
 こうしてどれぐらいの時間が経過しただろうか。シャンパンは底をついた。
 私とレダは踊るのをやめ、カウンターに腰をかけた。赤ワインで乾杯し、暫くすると彼女がこんな話をし始めた。
「5歳のときからピアノを習い始めました」「それはギリシャで?」
「もちろん、私はギリシャから来ました」「それは知っている」
「ピアノの先生が日本人でした」「へぇ!」
「その先生がとても優しくてギリシャ人が持っていない性格でした。私は日本人に興味を持ちました。だから日本のこと沢山勉強しました。そして一番興味があったのが…」「あったのが?」
「日本人の顔です。ホントにミステリアスで不思議な顔です」
「・・・」「あなたもそうですね」「そうか!ピアノの先生と僕の顔がリンクしていたのだね。そこに親近感が生まれただけなんだ〜」
 そう思うとなんだか複雑な気になりました。自分はイタリア系だと思っていたのに(笑)。
 この後、すっかりテンションが下がった私はハードボイルド気取りをやめて普通の人に戻りました。そのほうが話ははずみ、ギリシャ危機の事や日本経済の低迷や互いの文化について話しました。
 終わってみると、とてもさわやかな夜でした。
〜レダは現在、ロンドンに住んでいます。いつかは在日ギリシャ大使になりたいと言っていました。がんばれギリシャ!〜