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亀島延昌のちょっと一服

 
 

カウンターからタンゴの世界へ vol.20

○禁煙失敗
 そのころ私はタバコをやめようとしていました。とにかく体調が悪かったのです。逆流性食道炎をやったり胃痛に悩まされたり…。
 ある夕方、私は恵比寿の駅に向かいました。長身の男性のバースデーミロンガに行くためです。会場はリカルドというアルゼンチン人が経営するタンゴスタジオでした。
 麻美はステップを覚えてくるだろうか、しっかり長身の男性が組み立てたデモンストレーションをこなすことが出来るだろうか。そんなことを考えながら電車を降りましたが、時間にはまだ早かったので私は喫茶店に入ってコーヒーを注文しました。運ばれてきたホットコーヒーをひと口飲むと、無性にタバコが吸いたくなる。灰皿は目の前にある。目線をあげるとレジが見える。レジには透明のプラスチックケースがありマイルドセブン、キャスターやセーラムピアニッシモなどがならんでいる。当時私が吸っていたのはマルボロライト。幸か不幸かそれは無い。この際銘柄は何でも良いか。ポケットから小銭を探す…。小銭が無い。一万円を崩すか…。「…そこまですることは無いか。」私はコーヒーを残して席を立ちお店を後にしました。ふぅ、2週間目もクリアできそうだ!と、なんとか我慢できたのでした。
 ミロンガ開始は19時。会場には多くの人が集まっていました。国際色豊かで長身の男性の交友関係の広さを物語っていました。私は色々な人たちと話をするチャンスに恵まれ、ワインやシャンパンを飲みながら数曲タンゴを踊りました。そして時々視界に入ってくる特定の女性。黒に近い茶色の髪はショートカット。目と眉の間隔は狭く瞳は大きい。鼻筋が通っていて目の色は茶色。時々目が合うのは気のせいか。きっと気のせいだろう。
 ここで長身の男性が皆の前で挨拶をしました。来客者たちに御礼の言葉を述べ、いよいよデモンストレーションの開始です。この前、彼と話し合って決めた作戦は上手くいくでしょうか。体8割頭2割の麻美に対して覚えるべきステップを、正式名称ではなく擬音で覚えさせたのです。私は少し緊張しながら2人を見守りましたが心配をよそに麻美は見事にステップを暗記していました。金蹴り→スリスリ→アッハン→イチジクカンチョウなどなど、リディア・ボルダの「苦い果実」と言う曲にのって見事に踊りきりました。全員がまさに拍手喝采でした。長身の男性の企画したミロンガは、盛況のまま1時間半が経過しました。私は協賛として自分でワインを1ケース送っていました。来客者はそれを飲み楽しんでいるようでした。そして私が持ち込んだワイン「MASI」をクッと飲み干した女性がいました。先ほど数回ほど目が合った(気がした)女性でした。それを見た長身の男性はこう言いました。「レダ、このワインは彼が持ってきてくれたんだ。」「あ、そうですか。ありがとう。」微笑むレダ。私は日本式会釈をしました。「初めましてノブと呼んでください。」私は自己紹介をしました。「アルゼンチンの方ですか?」と続けて私は質問しました。「いえ、ギリシャ人です。」何度も聞かれているであろう、私の愚問にもいやな顔せず答えてくれたこのギリシャ人女性は、日本の大学に留学中とのことでした。「せっかくミロンガで出会ったんだから踊りなさい。」長身の男性がそう促すと、私とレダは踊り始めました。互いの距離が近づかない。二人の距離に拳2つ分間隔がある。他のカップルとぶつかりそうになる。足を踏む。この二人(私とレダ)は初心者どうしでした。2曲を踊り終えると、私とのタンゴに飽き飽きしたのか彼女は私をバルコニーに誘いました。私は言われるがままについて行きました。ワイングラスを2つ持って。たった2曲踊っただけなのに、汗をかいている。バルコニーに出ると風が気持ちよい。ワイングラスをチョイと上げて乾杯する。グラスどうしは合わせない。タンゴは下手だが私は誤らない。開き直るんだ。自分のペースに巻き込むんだ!!東京の夜空を見ながらそう心に決めて、ハードボイルドを演じる私の目の前に1本のたばこが差し出された。その方向に目をやるとレダがにっこりしながらウインクした。このウインクには参った。ラテンの人達はやたらとウインクをする。それは分かっていても目の前でされると照れるものがある。「あ、有り難う。」私はたばこに手を伸ばすとレダは火をつけた。煙を吸い込む。「うまい!」しかしハードボイルド気分でたばこを吸ったのは良いが、完全に相手のペースではないか!
〜こうして私の禁煙は2週間で終わり。KO負けでした〜